『望郷』(1937年)監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ主演:ジャン・ギャバン宿命の女:ミレーユ・バラン♪
2010年 08月 17日
1937年・フランス映画
監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ 原作:ロジェ・ダシェルベ 脚本:アンリ・ジャンソン、ロジェ・ダシェルベ 撮影:ジュール・クリュージェ 音楽:ヴィンセント・スコット 出演:ジャン・ギャバン、ミレーユ・バラン、リーヌ・ノロ、リュカ・クリドゥ、ルネ・カール、マルセル・ダリオ
★原題である「ペペ・ル・モコ」とはジャン・ギャバン演じる主人公の名。邦題の「望郷」とは美しい宝石や香水で身を纏ったパリからやって来た美女ギャビー(ミレーユ・バラン)によってペペ・ル・モコの故郷を思慕であり、男と女の運命的な出会いによる哀しいドラマ。パリからやって来て2年のペペ・ル・モコはカスバではボスであった。けれど、このカスバとは、アルジェリアの首都アルジェ郊外の城塞都市。そこはスラム化した町で、訳ありの人たちが流れ着く場所でもあり、ジャン・ギャバン扮するペペ・ル・モコもパリを追われてやって来たギャングだった。カスバは当時はフランスの植民地であったけれど、アルジェリア独立運動、迫り来るナチズムの脅威など暗雲の空気に溢れた時代。重苦しく悲観的な空気と異国情緒が不思議な閉塞感を画面から放つかのよう。カスバとは「砦」という意味を持つという。そんな砦の町は「牢獄」のようでもある。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督は「ペシミズム(悲観主義)表現の監督」と呼ばれていたそうで、本国フランスより日本での評価の方が当時は高かったと読んだことがある。
パリの香りを全身から漂わせるギャビー(ミレーユ・バラン)の美しさが私には忘れられない作品で、ミレーユ・バランの出演作品はこの一作しか鑑賞していないのだけれど、美しき宿命の女ギャビーとして永遠なのだ!ペペ・ル・モコはギャビーを追ってパリに出ると決める。それは明日無き恋であり運命の時でもある。成就などするはずはない。ペペ・ル・モコの逮捕の契機を待つスリマン刑事(リュカ・クリドゥ)、情婦イネス(リーヌ・ノロ)の夢と裏切り、少年やライバルたち...皆魅力的である。殊にスリマン刑事とペペ・ル・モコには「追う者と追われる者」ならではの奇妙な友情めいたものがある。この辺りは後々ジャン・ギャバンが見せてくれる「フレンチ・フィルム・ノワール」の幾つもの名作の中で描かれてゆく私の好きなテーマ「男の美学」を見るようである。
ペペ・ル・モコが最後に「...ギャビー!」と叫ぶ声と船の汽笛の音はやはり観る者の記憶に深く焼きつく名場面なのだろう!こうした「メロドラマ」もまた愛してやまない私。ミレーユ・バラン演じるギャビーは「悪女」とは思わないけれど、やはり一人の男(ペペ・ル・モコ)にとっては宿命の女、ファム・ファタルであったと遥か彼方の二人を思い浮かべ、知りもしない異国、時代に夢とロマンを馳せる♪
by musiclove-a-gogo | 2010-08-17 23:45 | 音楽・映画・文学★美しい関係