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『春のことば』 ヘルマン・ヘッセ 『人は成熟するにつれて若くなる』★読後の想いと覚え書き♪

懸賞 2010年 05月 01日 懸賞

『春のことば』 ヘルマン・ヘッセ 『人は成熟するにつれて若くなる』★読後の想いと覚え書き♪ _c0222662_434503.jpg

春のことば

子どもはみんな知っている 春が何と言っているかを・・・・・
生きよ 伸びよ 花咲け 望め 愛せ
よろこべ 新しい芽を吹け
献身せよ そして生きることを忘れるな!

老人はみんな知っている 春が何と言っているかを・・・・・
老人よ 埋もれよ
おまえの席を元気な子どもたちにゆずれ
献身せよ そして死ぬことを恐れるな!

人間らしく老いること、そしてそれぞれ私たちの年齢にふさわしい心構えと知恵をもつことは、ひとつのむずかしい技術である。たいていの場合、私たちの心は肉体よりも年とっているか、遅れているか、どちらかである。このずれを修正してくれるもののひとつに、内面的な生の感覚のあの動揺、人生のひと区切りや病気の際に私たちを襲うあの根源的な戦慄と不安がある。これらに対して人は自らを卑小に、無力に感じても仕方がないと私は思う。これは、ちょうど子どもたちが、命にかかわる障害を受けたあと、泣いたり衰弱したりすることによって最もよく平衡をとり戻すようなものである。

ヘルマン・ヘッセ 『人は成熟するにつれて若くなる』 訳:岡田朝雄 より

★ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse:1877年7月2日~1962年8月9日)の作品で最初に読んだのは『車輪の下』だった。中学から高校生の時期はドイツ文学が好きで色々図書館で借りたり、文庫を購入したりして読んでいた。次第にフランス文学へと偏り出すのは好きな映画や音楽との関係がかなり大きかったように想う。けれど、やはり好きなものは好きで国籍や言語は気にならない。ゲーテやニーチェはやはり今も好きだし。ヘッセは晩年『ガラス玉演戯』等でノーベル文学賞を受ける。この『人は成熟するにつれて若くなる』は、43歳から40年に渡る「老年」をテーマとしたヘッセが記録した観察で始まるもので、なんとも云えぬ感慨深い響きを私に与えてくださった。もっと私が年老いてゆくとまた違う印象を受けるのだろう。

ヘッセの85年の生涯は決して平穏ではなかった。自殺未遂、反国者扱いを受け、戦時奉仕の激務に加え、父の死、子供の病気、妻の精神病の悪化、そしてヘッセ自身もひどい神経障害にかかり治療を受けなければならなかった。ヘッセはこれらの苦しみの責任を外部へではなく自己の内部に求めるようになったという。その時期の作品が『デミアン(デーミアン)』である。ヘッセは内面への道を歩む求道者的でもあり、西洋文明の行方の懐疑、中国思想や仏教などの東洋思想への傾倒へ。『シッダルタ』はこの時期の代表的な作品。離婚再婚を経る時期の苦悩は『荒野の狼』で顕著である。ナチス時代、「好ましくない作家」という烙印ゆえに出版が不可能となる逆境と困窮の中でも、ドイツからの亡命者に手を差し延べていた。そして、晩年の大作『ガラス玉演戯』の完成へ。繊細な神経で幾度も精神的危機を体験しながらも最後まで反抗する魂に慄く!この『ガラス玉演戯』ではノーベル文学賞以外にも、ゲーテ賞、ラーベ賞、西ドイツ平和功労賞などの栄誉に輝いた。主人公クネヒトは、老いてから精神だけの世界を捨て現実の奉仕の世界へ向かい、ゲーテの言葉「死して成れよ」を実践するかの如く、教え子の若々しき世界に殉じて命を捨てる...美しい!

ヘッセはドイツ的内面性、ロマン主義的なものを保持しながらも、現実的な自我の分裂に苦しみ向かい合うという姿。85歳のヘッセは、愛してやまなかったモーツァルトのピアノソナタを聴き床につき、そのまま翌朝、脳溢血で永眠されたという。主人公のみならず、ヘッセご自身も「死して成れよ」を実践された様を想うと胸が熱くなる。有終の美と云うのは簡単だけれど、なんという強靭な精神か!老境に入ったヘッセの上のお写真などを拝見すると、生きよう!と想えるし、いつか死が訪れるけれど恐れてはならないのだと僅かながら感じるようになって来た...忍耐力の必要な今の私にとって、この書から得たものは光の賜物のようである。再び、ヘッセと巡り合えたことも何かのご縁だろうと嬉しく想う。

●『人は成熟するにつれて若くなる』 著:ヘルマン・ヘッセ 編:フォルカー・ミヒェルス 訳:岡田朝雄 ↑ レコード&CDショップVELVET MOON(音楽・映画・本のお店)

by musiclove-a-gogo | 2010-05-01 14:00 | 音楽・映画・文学★美しい関係

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